私は、香川県高松市で生まれ育ち、大学進学から県外に出て、それから20年以上を県外で暮らしている者です。

高松を離れて数年間のうちに、私の記憶にあったふるさとの風景は開発によってみるみる変化していきました。

かつてフナやドジョウをとったり、蛍の群れが舞った用水路は、三面をコンクリートで固められ、夜な夜なウシガエルが鳴き水草ぼうぼうでどこが水面なのか分からない気味の悪い沼は埋められて公園になり、荒神さんのこじんまりとして気持ちの良い空気があった鎮守の森は、道路開発に飲み込まれていきました。

開発によって地域の生活が便利になっていくのはよいことなのだろうけれど、根こそぎもっていくこともなかろうにと落ち込みました。もう自分のふるさとはなくなってしまったと思いました。

そうして私は、四国のあちこちの山や川、海を訪ねて旅をするようになっていきました。

家族で温泉旅行へ。一人で車中泊をしながら、きまぐれに写真撮影の旅へ。

ご縁をいただき、憧れだった歩き遍路の旅に出ることにもなりました。

四国には、美しい里山の風景がしっかりと残っていることが感じられ、それはとても嬉しかったのです。

最近、高松の実家でゆっくりと過ごす機会がありました。

庭の草むしりをしていたとき、ふと我にかえると、どこからか鳥の鳴き声が聞こえてきます。

ピーチクパーチクピーチクパーチクとひっきりなしに鳴いています。聞き覚えのある鳴き声でした。

思えばそれが私の子どもの頃の原風景なのでした。

「ああ、こんなところにあったんだ」

ふるさとを離れて、20年以上も経ってようやく気がついたのです。

「ちゃんと、あるじゃないか」ということに。

ここではないどこかに未知なるものを探し求めるのも旅、自分の足元をしっかり見つめ直してみることもまた旅なのでしょう。

自分の未だ知らない世界は、案外自分の近くにあるものだと思っています。

2018年12月31日

Masakazu Murai / Photographer